既に掲載した「健康の話 細胞について」で、健康の基本は、“自分自身が、身体を形成している最小単位である「細胞」が喜ぶ生活をすることである”旨説明しましたが、今回の「健康の話 自律神経について」では、その生活に大きく影響を与える”自律神経、即ち、交感神経と副交感神経”について説明します。
人間には生命を維持するために、即ち、「細胞」が喜ぶ生活をするために必要な基本的身体条件(健康診断検査項目の正常な数値、自律神経の正常なバランス、各器官の正常な働き等)がもともと身体に備わっています。そして、その身体条件を変えるような気象条件、生活環境が発生すると、交感神経(体の機能を興奮モードにする)と副交感神経(体の機能を鎮静モードにする)、が頻繁に切替わりバランスを取り正常な身体条件を保つように働きます。それによって「細胞」が喜ぶ生活が保たれ、生命が維持されています。
しかし、気象条件、生活環境の変化が頻繁に発生することによって、交感神経と副交感神経が過度に切替わるようなことがあると、バランスが乱れ、いらいら、不眠、内臓機能の低下、消化機能の低下、食欲不振、免疫機能の低下等により、身体のだるさ等身体の不調を感ずるとともに風邪、インフルエンザに掛かり易くなります。
そこで、四季おりおりの気象条件、生活環境の変化を理解し、それら変化に対する交感神経と副交感神経の作用と身体への影響を理解し、適切な対策(予防、軽減、そして乱れを安定させる対策)を講ずることによって、年間を通して安定した健全な生活を維持することが可能になります。
以下にその内容を解説します。
【1】自律神経、即ち、交感神経と副交感神経
興奮モードを担い、主に日中にもともと優位となる交感神経と、鎮静モードを担い、主に夜にもともと優位となる副交感神経は、日々の気象条件、生活環境の変化に対応して頻繁に切替わりバランスを取り自動調整して、基本的身体条件を守っています。
しかし、両神経がバランスを乱し、調整機能を失ったりすると基本的身体条件に変動をきたし、身体の不調を感じたり、発病したりすることになります。
気象条件、生活環境の変化に伴う交感神経と副交感神経の各器官への作用をまとめると下記の通りです。
自律神経 器官 | 交感神経 | 副交感神経 |
(気分) | 緊張、興奮 | リラックス |
血管 | 収縮させる | 拡張させる |
血圧 | 上げる | 下げる |
汗・ 鳥肌 | 汗を分泌し体温を下げる(暑い時など) | 鳥肌を立てて熱の放出を防ぐ(寒い時など) |
心臓 | 脈拍を早くする | 脈拍をゆっくりする |
気管 | 広げる | 狭くする |
胃腸 | 働きを抑える | 活発にする |
呼吸 | 早くする | 遅くする |
排便・ 排尿 | 抑制する | 促進する |
消化 | 消化液の分泌を抑え、抑制する | 消化液の分泌を高め、促進する |
瞳孔 | 拡大し、涙の分泌を抑制する | 収縮し、涙の分泌を促す |
唾液 | 量を少なくする | 量を多くする |
【2】季節の気象、生活環境の変化、及び変化に伴う自律神経の作用と身体への影響
春 | 春は3月~5月の期間を言い、「春分の日」頃から冬のきびしい寒さが終わり、だんだん温かくなり、桜が咲き、草花が芽生え、身体も心も軽くなるような爽やかな季節であると言われていますが、実は、気温の寒暖差、気圧の変動、及び生活環境の変化が頻繁に発生し、交感神経と副交感神経の切替えが頻繁に行われ、バランスが乱れ安い時節と言えます。 (1)初春は「3寒4温」と言うように高気圧によりポカポカ暖かい日になると思えば、一転して低気圧により寒い日になり、その後、いわゆる「春一番」により急に気温が上昇したり、「春の嵐」と呼ばれるように、強い雨が降ったり、強い風が吹いたりします。このようにこの時期は気温・気圧の変化が頻繁に起こります。 かかる気温・気圧の頻繁な変化に対応して、両神経の切替えが頻繁に続くため、調整機能のバランスが乱れ易くなり、体の不調を感じ易くなります。 (2)5月になると高気圧が張り出してきて温かく澄み渡った青空になり、からっとした「五月晴れ」が多くなります。この時期は副交感神経が優位となりリラックス状態が続き、体調もよく、ゆったりした気分になります。 ただ、この頃から冬の夜長が短くなり、朝明けが早くなり、「春眠暁を覚えず」と言うように 寝不足を感ずる日が多くなり、それがストレスとなって交感神経が必要以上に高まり、結果として体調不良を感じ易くなります。 (3)また、3月の年度末には、卒業、入学、入社、異動、転勤という生活環境の変化が多くな り、人との接触が増え、喜怒哀楽の感情の起伏も多くなり、交感神経と副交感神経の切替えが頻繁になり、バランスが乱れ易くなり、体調を崩し易くなります。 |
夏 | 夏は6月~8月の期間を言い、じめじめした梅雨期が終わると、高温、高湿度の太平洋高気圧が張り出し、気温が急速に上昇し、蒸し暑い猛夏が到来します。 冷房の効いた快適な室内と猛暑の屋外を頻繁に出入りする生活が続くとともに冷房の効いた室内に1日中のほとんどを過ごすことが多くなります。 頻繁な出入りにより両神経が頻繁に切替わることによってバランスを乱し易くなり、また、涼しい快適な室内に長く滞在することによって両神経の体温調節機能が緩慢になり、内臓機能の低下により身体の不調を感ずるととも、免疫機能の低下により夏風邪、インフルエンザを発病し易くなります。 更に、高温で湿度が高い日は、熱が体中こもり「熱中症」を発症し易くなります。 また、夏の風物詩である花火大会、盆踊り、夏祭り等に加え、海水浴、山登り等の野外活動が活発になり、喜怒哀楽の感情によって交感神経が必要以上に刺激されます。そして、夕方になっても収まらず、夜に優位であるべき副交感神経より優位の状態が続くと両神経の調整バランスが乱れ、身体の不調を感ずるとともに、夏風邪、インフルエンザを発病し易くなります。 |
秋 | 秋は9月~11月の期間を言い、「女心と秋の空」の諺のように、初秋は、晴れと雨を繰り返す変わり易い天候が続き、時には「秋の長雨」となります。また、9~10月に伊勢湾台風のような大きな「秋台風」が到来しますが、それが過ぎると、すがすがしい、「小春日和」、「秋晴れ」が続き、「天高く馬肥ゆる秋」、「実りの秋」、「食欲の秋」が到来します。台風の時期を除けば、秋は気温、気圧、湿度ともに安定した日々が多く、旅行などの外出、「秋祭り」等生活環境がざわつくこともありますが楽しさが勝り、気分の良い日々が続き、交感神経と副交感神経がバランス良く働き、一年中で最も自律神経が安定する時節となります。 ただ、11月になると、「秋冷え」となり、「木枯らし」が吹き始めます。寒さが身に染みる日々が続くと、交感神経が働き、血管を収縮させ、血流を抑え体温が奪われないように働き、夜になっても副交感神経を上回る場合は、両神経のバランスが崩れ、体調の不調を感じ易くなります。 |
冬 | 冬は12月~2月の期間を言い、1年で最も寒さが厳しくなる季節です。屋外は寒いが屋内は暖房で温かく、頻繁な出入りによって、両神経の切替えが頻繁に行われ、バランスを乱し易くなります。また、クリスマス、年末・新年を迎え生活環境がざわつくとともに飲み過ぎ、食べ過ぎによって消化機能が乱れや易くなります、また、人混みの中に滞在する機会も多くなり、交感神経が強く働き、両神経のバランスが乱れ易くなります。それらによって、不眠を引き起こし、身体の不調を感じ易くなるとともに風邪やインフルエンザに掛かり易くなります。 |
【3】自律神経のバランスの乱れを予防し、軽減し、乱れを安定させる対策
春、夏、秋、冬いずれの季節においても、気温・気圧・湿度の高低の変化が発生しますが、その変化が頻繁に起こると自律神経(交感神経と副交感神経)の作用が乱れ、いらいらしたり、不眠になって、内臓機能が低下、消化機能の低下、食欲の減少を引き起し、その結果エネルギーが減少し身体がだるくなったり、疲労感を強く生ずるとともに抵抗力が低下し風邪やインフレンザに掛かり易くなることについては、既に、ご説明した通りです。 そこで、お気付きのことと存じますが、「四季を通じて発生する交感神経と副交感神経の乱れをいかにして防ぐか、軽減するか、また、乱れを安定させるか、適切に対策を講ずること」が重要なポイントであると言うことがお分かりのことと存じます。 重要なポイントとなる主な対策をまとめると下記の通りですが、体験からもそれほど難しいことではなく、容易に行うことが可能と思われますので、出来る範囲で早速始めていただきたく存じます。 (1)3食を必ず取ること。 朝食:洋食、和食いづれでも結構ですが、ただ、量は軽めが望ましい。 昼食:洋食、和食いづれでも結構ですが、しっかり食べたほうが良い。尚、発酵食品(例えば、ヨーグルト、納豆)、及び野菜をメニューに加えること。 夜食:好きな食べ物で消化の良いものを食べ過ぎないように取ること。食後、白湯を一杯飲むこと。尚、食後、お茶などの飲み物を飲む習慣の方は、お茶碗、グラスに1~2杯程度とし、頻尿を避けるためにも飲み過ぎないようにすること。 (2)寝る前に、ゆっくりお風呂に入ること 日中には気象条件、生活環境の変化によって交感神経と副交感神経の作用に乱れを生ずることが多いので、寝る1~2時間前に湯温38℃~40℃のお風呂に、10分~15分間ゆったりした気分で、半身浴すること(半身浴では物足らない方は、どっぷりつからず、せいぜい肩が出る程度までつかることをお勧めします)。入浴直後に、グラス1杯の水を飲むこと。 これによって、乱れていた両神経のバランス機能が戻るとともに、夜には優位となる副交感神経が正常な状態になります。 (3)睡眠を十分に取ること。 入浴後、20分~30分程度ゆっくり休み、体温が下がる前に布団に入ること。副交感神経が優位となり体温が下がり始め眠くなります。最低3時間の熟睡を含め6時間の睡眠を取るのが望ましい。寝付かれない場合や途中目が覚めた場合には、布団の中にそのまま横になって眠くなるのを待つこと、その間音楽を聴いたり、ラジオを聴いてもよいし、読書が良い方はそれでもよいが、睡眠を誘うような難解なものが良い。 (4)5,000歩~8,000歩のウオーキングを行うこと(高齢者は1万歩を超えないようにすること)。毎日が望ましいが、週2~3日でもよい。 周りの景色を眺めながら、きれいな花があれば美しさを感じながら普通の速度で、若干大股で歩くように努めること。ただし、靴はウオ-キング用のものを購入し履くこと。 (5)腹式呼吸を行うこと、そして身体の右側を下にして寝ること。 布団に入った時、3秒程を掛けて鼻または口から腹を膨らませながら空気を吸い込み、そのまま3秒ほど息を止めて、6秒ほどかけて腹をへこませながら空気を吐くこと、5回程度行うこと。 これによって、副交感神経が活発化し、睡眠に入り易くなる。 また、その後、身体の右側を下にして寝ることによって、呼吸がし易くなり、熟睡し易くなる。 (6)時間を見つけて、下記事項を行うように努めること。 好きなことを行うこと(好物を食べる・のむ、好きな映画・TVを見る)、笑うこと(落語を聞く、笑えるTVを見る)。公園などでボーとすること。気の合う人と会話すること。冷たいものや甘いものを取り過ぎないこと。長く室内で過ごす場合は、ときどき窓を開けること。座りっぱなしが続く場合、時々立つ・歩く・ストレッチを行い身体を動かすこと。 文 責 :高橋 昭浩(当法人職員) 健康管理士上級指導員 参考資料:・「ほすぴ」 成人病予防対策協会発行 ・その他公開情報 |