40年ぶりの民法改定! 人生設計への影響は!

40年ぶりの民法改定 人生設計への影響は

4年前の2018年7月に、約40年ぶりに民法が改定され、その中の”相続に関する規定(相続法)”の大幅改定、および新設が行われ、2019年から今年にかけて順次施行されています。
特に注目すべきポイントは9つあり、何が、どう変わったか、ご説明します。

皆様に於かれては、コロナ渦で精神的に余裕がない状態であろうと存じますが、老後の人生設計に重要な事項ですので、この際、理解し、記憶にとどめていただきたく存じます。

【「自筆証書遺言」の要件緩和】
1.法務省令で定めた様式に従って書いた遺言書(「自筆証書遺言」)は、法務局で低額な費用で安全に管理・保管できるようになりました(法務局における「自筆証書遺言」の保管制度の新設)。(2020年7月10日施行)
2.法務局で保管された「自筆証書遺言」は、開封時に裁判所の「検認」が不要になりました。(2020年7月10日施行)
3.「自筆証書遺言」に添付する財産目録は、パソコンで作成することが可能となるとともに、通帳等の証拠書類の写しを添付して作成することも可能となりました。(2019年1月13日施行)
【配偶者の住居に関する権利の拡大】
4.配偶者に居住権が認められ、被相続人の死後、これまで住んでいた自宅(土地と家屋)に、終身又は一定期間そのまま無償で住むことが可能になりました(配偶者居住権の新設)。(2020年4月1日施行)
5.結婚期間が20年以上の夫婦間の住居用不動産の生前の遺贈・贈与は、遺産の先渡し(特別受益)の対象外となりました。(2019年7月1日施行)
【相続の円滑化】
6.遺留分を侵害された者は、遺贈・贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金額を請求することが可能になりました。また、遺贈・贈与を受けた者が直ちに支払いを準備することができない場合は、裁判所に支払期限の猶予を求めることが可能になりました。(2019年1月13日施行)
7.遺産分割前に、被相続人の預・貯金から必要経費を引き出すことが可能になりました(預・貯金の払い戻し制度の新設)。(2019年1月13日施行)
8.被相続人(例えば、夫の親)の介護や看病で貢献した相続権を持たない親族(夫の配偶者)は、相続人(夫等)に貢献の対価として金銭を請求することが可能になりました。(2019年7月1日施行)
【成年年齢の引下げ】  
相続には直接関係はありませんが、成人年齢が引き下げられました。9.成人年齢が20歳から18歳へ引き下げられました。これによって、女性の結婚年齢が16才から18才に引き上げられ、男性の結婚年齢が20才から18才に引き下げられました。(2022年4月1日施行)

上記の各項目に関して、下記の通り解説します。

1.これまでは、本人が自由に遺言書を作成し、自宅のタンス等に保管する方法、および公証人に依頼して遺言書を作成し、公証人役場に管理・保管する方法(「公正証書遺言」)がありましたが、今回、法務省民事課が「遺言書の様式の注意事項」として公表した作成方法で本人が遺言書を作成し、新設の「遺言書保管制度」を活用する方法(「自筆証書遺言」)が追加されました。
「遺言書保管制度」とは、公表された様式に基づいて書いた遺言書(「自筆証書遺言」)を、本人が最寄りの法務局に持参すれば、法務局担当者が、遺言書の書き方等が公表条件に適合しているかを確認してくれ、3,600円の費用を払えば、生涯、または一定期間、安全に管理・保管してくれる制度です。なお、保管中、所定の手続きにより、遺言書の閲覧および内容の変更を行うことができます。
2.遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を受けなければなりません。「検認」とは、家庭裁判所が相続人に対して遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書を開封し、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。
「検認」に関しては、
・今回の「遺言書保管制度」を活用した「自筆証書遺言」は、交付される「遺言書情報証明書」を提示することによって、裁判所の「検認」は不要となります。
・公証人に依頼して作成され、管理・保管された「公正証書遺言」も、交付される「遺言書情報証明書」を提示することによって、「検認」は不要となります。
・本人が自由に作成し、保管されていた「遺言書」は、家庭裁判所の」「検認」が必要であり、「検認」により適正と判断されると「検認済証明書」が発行されます。かかる手続き後、遺言の執行が可能になります。なお、「検認」を受けないで開封すると、罰金が課されるとともに、遺言の執行はできません。
3.「自筆証書遺言」に添付する「財産目録」はパソコンで作成しても、証拠書類の写しを添付し作成しても良いことになりましたが、下記事項を厳守する必要があります。
・A4用紙を使用すること
・規定通りの余白を残すこと(向かって左側20mm以上、右側5mm以上、上部5mm以上、下部 5mm以上)
・ページを付けること(例えば、3枚の1ページ目は“1/3 ”とする)          ・各ページの下部に氏名を自書し、捺印すること
4.住居(建物と土地)についての権利が、今般、「配偶者居住権」と「負担付きの所有権」に分けられ、遺産分割の際などに、配偶者が「配偶者居住権」、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を1:1の比率で取得することが可能になりました。また、預貯金は、従来通り、配偶者と配偶者以外の相続人が1:1の比率で分割することになります。なお、居住(建物と土地)に対する税金は権利の所有者が支払うことになりますが、完全な所有権とは異なり、人に売ったり、自由に課したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます。
例:相続人が妻(配偶者)と子供2人、遺産:自宅(家と土地)2,000万円+預貯金3,000万円の場合
(改正前)妻と子供の相続配分:1:1(2,500万円:2,500万円)
妻:2,500万円(自宅2,000万円+預貯金500万円)
子供:2,500万円(預貯金2,500万円)(2人の子供は均等分割)
(改定後)妻と子供の相続配分:1:1(2,500万円+2,500万円)
自宅:「 配偶者居住権」1,000万円+「負担付きの所有権」1,000万円
  妻:「配偶者居住権」1,000万+ 預貯金1,500万円

子供:「負担付き所有権」1,000万円+預貯金1,500万円
      (2人の子供は均等分割)

(コメント)「改正前」は、妻が自宅を取得する場合は、他の財産の額が少なくなり、「改正後」は、妻が自宅に継続し住居しながら、他の財産の額が増加します。
5.結婚機関が20年以上の夫婦間で自宅(家と土地)が遺贈(遺言によるもの)または贈与(生前契約によるもの)された場合は、遺産分割に於いて遺産の先渡しとして取り扱われなくなり、相続財産の総額からその分減額されなくなりました。
配偶者の妻は、自宅の生前贈与を受けた場合は、結果的により多くの相続財産を得て、生活を安定させることができるようになりました。
6.遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図るなどの観点から、最低限の取り分を確保するする制度ですが、今回の改正により、遺留分を侵害された相続人は、被相続人から多額の遺贈、または贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額(不足分)に相当する金銭を請求することができるようになりました(例えば、故人が配偶者がいるにもかかわらず「愛人に遺産をすべて渡す」という遺言書を作成しているとすると、配偶者の遺留分が相続財産の1/2なので、財産の1/2を愛人に対して請求できる)。法定相続人の財産に対する遺留分の割合は下記のように定められています。

相続人遺留分合計配偶者の遺留分子供の遺留分親の遺留分兄弟姉妹 の遺留分
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子供1/21/41/4
配偶者と親1/21/31/6
配偶者と兄弟姉妹1/21/2
子供のみ1/21/2
親のみ1/31/3
兄弟姉妹のみ

なお、遺留分及び遺留分侵害額(不足分)の所定の計算法がある(ご要請により、別途説明)。
7.被相続人の死後、生活費用の支払い残額、葬儀費用、相続債務の弁済などの資金需要がある場合、遺産分割前に預貯金の払い戻し(口座からの引き出し)を行うことができるようになりました。
しかし、小口の資金需要については、家庭裁判所の判断を経ないで行うことができますが、比較的大口の資金需要については、債権限度額以内で払い戻しができるようになりました。
債権限度額の計算方法:  
(相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)x1/3 x(当該払い戻しを行う共同相続人の法定相続分)

8.被相続人の療養看護等を相続人以外の親族が無償で行った場合には、相続人に対して、金銭の請求ができるようになりました。例えば、夫の親の介護を妻が行った場合、妻(夫の親の財産の相続権はない)は、介護に費やした労力について夫等(親の財産の相続者)に対し相当の対価を請求できるようになりました。
9.成年年齢の引き下げに伴う年齢要件の変更が下記の通り行われました。

改正前「20歳」から、改正後「18歳」に変ったもの改正前「未成年」(20歳以下)が、改正後も「20歳」で維持されたもの
選挙権、被選挙権
契約行為、カード作成、借金等の実施 10年用一般旅券の取得
帰化の要件
性別の取扱いの変更の審判
人権擁護委員・民生委員・社会福祉主事資格
船舶職員、小型船舶操縦者講習実施講師等
喫煙年齢
飲酒年齢
アルコール健康障害の定義
養子をことのできる年齢
障子慢性特定疾病医療費の支給患児の年齢 競馬、競輪、競艇、カーレース勝者投票券の購入年齢等
改正前「未成年者」(20歳以下)から、改正後「未成年者」(18歳以下)に変ったもの改正前「20歳」が、「改正後」も維持されるもの
公認会計士資格
医師、歯科医師、獣医師、薬剤師資格
司法書士、行政書士、社会保険労務士資格
土地家屋調査士資格
分籍
●犯罪者の実名報道 
大型、中型免許等
国民年金の被保険者資格
船長、機関長の年齢
猟銃の所持の許可年齢
特別児童扶養手当支給対象者年齢 
指定暴力団等への加入強要禁止年齢等