民法では、相続の基本的ルールが定められており、この民法の相続について規定 した部分を「相続法」と言います。
「相続法」は、1980年(昭和55年)に改定されて以降、大きな改定は行われて いませんでしたが、高齢化の進展等の社会環境の変化に対応するため、38年ぶり に大幅に見直され、昨年(2018年)7月6日に国会を通過し、改正されました。
改正の主な内容は、「残された配偶者の老後の生活の安定化」であり、主なポイント及び施行期日は下記の通りです。
1.「自筆証書遺言書」の方式の緩和(2019年1月13日から施行)
これまでは「全文を自書する」ことが成立要件でしたが、遺言書に添付する「相続財産の目録」として、パソコンで作成した目録や通帳のコピー等を添付する ことが可能になった。
2.「自筆証書遺言書」の法務局保管制度の新設(2020年7月10日から施行)
自筆遺言書は自宅で保管されることが多く、紛失、書き換え等の問題による相続紛争が発生することがあったが、それを防止するために、遺言者本人が作成した自筆遺言書を所管の法務局に持参し保管申請すれば保管管理してくれる。 その際、家庭裁判所が相続人立会いのもとで行ってきた内容確認のための「検認」の手続きは不要となった。
3.配偶者居住権の新設(2020年4月1日から施行)
住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割し、配偶者が「居住権」を取得すれば、「所有権」が他の相続人や第三者にわたっても自宅に住み続けることが出来る(配偶者居住権の価値は所定の計算式で算出される)。
尚、配偶者が遺産分割の対象の建物に住んでいる場合、遺産分割が終了するまで無償で住めるようにする「配偶者短期居住権」も設けられた。
4.婚姻20年以上の夫婦の優遇策(2019年7月1日から施行)
結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は「遺産とみなさない」との意思表示があったとして、遺言分割の計算から除外する。 この場合、配偶者は住居を離れる必要がないだけでなく、他の財産の配分が増え、老後の生活につなげることが出来る。
5.相続の不公正感(介護等の寄与)の是正(2019年7月1日から施行)
相続人以外の親族が介護や家業の手伝いを行った場合、相続人に金銭を請求できる。例えば、長男の妻などが介護や家業の手伝い等で寄与した場合、相続人に寄与度に応じた金銭を請求できる。ただし、事実婚や内縁など、戸籍上の親族でない人は従来通り請求できない。
6.金融機関の「仮払い制度」の新設(2019年7月1日から施行)
現状では、銀行等の金融機関は、遺産分割協議が成立するまで原則として故人の遺産の払戻しや名義変更に応じない(いわゆる口座の凍結)。その為に、生活費の確保や葬儀費の支払いに支障をきたすケースが起きてきたが、遺産分割協議が終わる前でも、生活費や葬儀費用の支払いなどの為に故人の預金を金融機関から引き出しやすくする「仮払い制度」を新設した。