アートカードで健康長寿が期待される根拠は?

私たちが新事業を計画している段階で出会ったお二人の研究者(専門家)から、
次のようなメッセージをいただきました。
 ※末尾に、PDFも添付してあります。

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 鈴木宏幸氏
 (心理学博士、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム)

 認知症予防の薬理的アプローチ(薬剤による認知症発症の予防・遅延)に限界がある現状において、非薬理的アプローチ(認知機能の低下抑制および維持・向上を目指す取り組み)が重要です。認知機能の低下抑制、維持・向上を目指す研究の中で、栄養や運動などの生理的アプローチ以外に、脳の神経ネットワークに関わる「認知的アプローチ」の有効性が明らかになっています。具体的には、知的活動、コミュニケーション、社会参加、メンタルヘルスの向上などです。
 竹箒の会が新たに手掛ける「アートカード・ゲーム」では、今までの体験者の感想を拝見すると濃厚な交流の効果が期待されます。美術鑑賞では「対話」に関する実践研究が国内外で行われており、そのノウハウは認知症予防の「認知的アプローチ」に有効のように思われます。また、ゆうゆう館の高齢者と児童館の子供たちが、一緒にアートカード・ゲームを行うことで、相互の交流やコミュニケーションが行われることも、認知症予防に効果があると考えています。子どもの側への効果も多面的に期待することができます。
 認知的アプローチの実践的研究として、私たちの研究チームでは「絵本の読み聞かせ」による認知機能の低下抑制に関する研究を行っています。絵本の読み聞かせ初心者の高齢者の方に、3か月間に渡って絵本の読み聞かせ方法の習得講座に参 加してもらったところ、認知機能の向上が見られました。また、高齢者が主として子供たちを対象に絵本の読み聞かせを実践する「りぷりんと」というボランティア研究においては、7年間の追跡の結果、参加する高齢者の方は脳の記憶領域の萎縮が少ないという結果も得られました。
 アートカードゲームの健康長寿への効果に関する実証はこれからですが、絵本の読み聞かせと同様に認知症予防に効果的な活動となることを期待しています。

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 奥村高明氏
 (芸術学博士、日本体育大学児童スポーツ教育学部教授、専門は美術鑑賞教育等)

 海外には、認知症と家族のための美術鑑賞プログラムがありますが、最近は国内の美術館や介護施設等でも提供されるようになりました(※)。実施方法は、対話による 美術鑑賞をベースにしたもので、作品を前に参加者が思いついたことを話したり、話し合ったりするものです。
 国内外では、対話以外の美術鑑賞の方法として様々なアクティビティが行われています。日本ではアートカードを用いたアートカード・ゲームが手軽な方法として広く普及しています。ゲームという形を採り、一人で考えたり、グループで話し合ったり様々な活動が可能です。
 どちらの方法も、参加者自身が主体的になる姿勢が求められます。作品やアートカードをよく見て、考えたことを発表したり、感じたことを表現したり、グループで話し合ったりしながら、主体的に意味を見出します。そこに、脳力を覚醒する効果が期待できそうです。
 竹箒の会の新事業の構想段階で相談を受け、高齢者や健康長寿分野の研究者が加わるといい事業になると申し上げました。その方向で、事業化が検討されており、今後が楽しみです。
竹箒の会の新事業は、「元気な高齢者」を対象に、アートカード・ゲームでスタートすることを考えられているようですが、グループでの対話を進行するボランティアさんにも、ゲームに参加する一般の高齢者にも、健康や長寿に関する効果が期待できると思っています。
 また新事業が軌道に乗った後に、杉並区全体を美術館と見立てた、「わがまちアー トカード」の作成と活用の計画もあるようです。全国的にも行われていない新しい活動で、とても楽しみです。これも健康長寿効果が期待されるプランです。

※ニューヨークの近代美術館が保険会社と開発した対話型美術鑑賞による認知症 改善プログラムを日本で導入した例。 NPO 法人アーツアライブによるもので、国立長 寿医療研究センターと共同の調査結果をHPで報告している。